ニュースなどで頻繁に耳にする「円高」「円安」という言葉。でも、具体的にどういう意味なのか、日常生活にどんな影響があるのかよくわからないという人も多いのではないでしょうか。
この記事では、円高・円安の基本的な仕組みから、それぞれのメリット・デメリットまでわかりやすく解説します。
円高・円安は、日本円の価値が外国通貨と比べて上がるか下がるかによって決まります。
例えば、1ドル=100円から1ドル=90円になれば円高、逆に1ドル=110円になれば円安というわけです。円高になると輸入品が安くなるなどのメリットがある一方で、輸出企業の業績悪化などデメリットもあります。円安の場合はその逆です。
この記事を読めば、今まで何となくしか理解していなかった円高・円安について、基準となる為替レートの見方から経済への影響まで、しっかりと頭に入れることができるでしょう。
円安とは?
円安とは、外国通貨に対して日本円の価値が下がり、同じ金額の円でより少ない外貨しか買えなくなる状態のことです。
例えば、1ドル=100円から1ドル=120円になると、以前は100円で1ドル買えていたのが、120円払わないと1ドル買えなくなります。つまり円の価値が下がったため、円安と呼ばれます。
円安になると、輸出企業は有利になります。なぜなら、外国で売った商品代金を円に換金する際、より多くの円を得られるからです。
一方、輸入企業は不利になります。外国から仕入れる原材料などの代金を支払う際、より多くの円を外貨に交換する必要があるためです。
また、海外旅行をする際も、同じ金額の円でより少ない外貨しか買えないため、旅行者にとっては不利になります。
円高とは?
円高とは、外国通貨に対して円の価値が上昇し、1単位の外貨を購入するのに必要な円の額が減ることを指します。
例えば、1ドル=100円から1ドル=90円になると、1ドルを購入するのに90円しか必要なくなるため、円高といえます。円高になると、輸入品の価格が下がるため、輸入企業や海外旅行に行く人にとってはメリットがあります。
一方で、輸出企業は商品の価格競争力が低下し、海外での売上が減少するというデメリットがあります。
また、円高は日本経済全体に影響を及ぼす可能性があります。輸出の減少により企業業績が悪化し、国内の雇用や賃金の低下につながるリスクがあるためです。
円安・円高に明確な基準値は無い
円安・円高とは、外国通貨に対する日本円の相対的な価値の変動を表す言葉です。
しかし、円安・円高を判断する明確な基準値は存在しません。為替レートは常に変動しており、ある時点や期間と比較して円の価値が上がれば円高、下がれば円安と表現します。
2024年は3年連続で1米ドル=150円を超える円安状態
2024年の円相場は、2022年から3年連続で1米ドル=150円を超える円安水準となっています。
しかし、2022年と2023年の円安は主に日米金利差の拡大が原因だったのに対し、2024年は金利差以外の要因、特に投機的な円売りの増加が円安を加速させていると考えられます。
円安・円高を判断する明確な基準値は存在せず、その時々の経済状況や各国の金融政策などを踏まえて相対的に判断されます。
ただし、輸出企業は社内の予算レートなどを基準に採算ラインを設定しているため、企業業績への影響という観点では個別の基準値が存在するといえるでしょう。
いずれにせよ、足元の円安は日本経済に大きな影響を与えており、物価上昇や家計の購買力低下など、国民生活にも深刻な影響が出ています。日銀や政府の対応が注目されます。
円安・円高はどっちがいいのか
円安と円高は、それぞれメリットとデメリットがあるため、一概にどちらが良いとは言えません。
円安は輸出企業にとってはメリットですが、輸入品の価格上昇により消費者の負担が増えるデメリットがあります。
一方、円高は輸入品が安くなるため消費者にはメリットですが、輸出企業の業績悪化につながるデメリットがあります。
結局のところ、円安と円高のどちらが良いかは、個人や企業の立場によって異なります。
日本経済全体で見れば、適度な円安は輸出企業の業績向上につながり景気にプラスに働く一方で、行き過ぎた円高は企業業績の悪化や景気後退のリスクがあるため、バランスが大切だと言えるでしょう。
円安のメリット
- 輸出企業は売上が増加し、業績が向上する
- 海外からの観光客が増える
輸出企業は売上が増加し、業績が向上する
円安になると、日本円の価値が外貨に比べて下がるため、輸出企業にとっては大きなメリットがあります。
例えば、1ドル100円の時に1000万円分の商品を輸出すると、1万ドルの売上となります。しかし、円安が進行して1ドル120円になった場合、同じ1000万円分の商品を輸出すると、約8,333ドル(1000万円÷120円)の売上となります。
つまり、円建てでは売上が変わらなくても、外貨建てでは売上が増加することになります。
これにより、輸出企業の業績は大幅に改善し、利益率も向上します。さらに、円安により日本製品の価格競争力が高まるため、海外での販売数量も伸びる可能性があります。
海外からの観光客が増える
円安になると、外国人観光客にとって日本旅行がお得になります。例えば、1ドル100円の時は1万円が100ドルですが、1ドル150円になると同じ1万円が約67ドルで済むことになります。
この為、円安は日本への旅行を検討している外国人にとって大きな魅力となります。
実際、2022年以降の急激な円安を受けて、日本を訪れる外国人観光客数は大幅に増加しています。2023年の訪日外国人数は約3,200万人に達し、コロナ禍前の2019年の3,188万人を上回りました。
特に、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ諸国からの観光客の伸びが顕著です。観光庁の調査によると、2023年10-12月期の訪日外国人1人当たりの旅行支出は約26万円と、2019年同期比で40%以上増加しています。
円安を追い風に、訪日外国人の消費が日本経済を力強く下支えしているのです。
円安のデメリット
- 輸入企業はコストが上がり、業績が悪化する
- 海外旅行が割高になる
- 輸入品の価格が上がり、生活必需品の値上げにつながるリスクがある
- 賃金が変わらないのに出費が増える
輸入企業はコストが上がり、業績が悪化する
円安になると、輸入企業は海外から商品や原材料を仕入れる際に、より多くの日本円を支払わなければなりません。例えば、1ドル100円の時に1万ドルの商品を輸入していた企業は、100万円で仕入れができていました。
しかし、円安が進行して1ドル120円になると、同じ1万ドルの商品を輸入するのに120万円が必要になります。この差額分だけ、輸入コストが増加することになります。
輸入企業がこの増加したコストを販売価格に転嫁することができれば問題ありませんが、競合他社との兼ね合いや消費者の価格志向などを考慮すると、簡単に価格に転嫁できるとは限りません。
その結果、輸入企業の利益率が低下し、業績悪化につながる可能性があります。特に、輸入依存度が高い企業ほど、円安の影響を大きく受けることになります。
海外旅行が割高になる
円安になると、日本円の価値が下がるため、外貨を購入する際に多くの日本円が必要になります。つまり、同じ金額の外貨を手に入れるためには、より多くの日本円を支払わなければなりません。
これは、海外旅行の費用が割高になることを意味します。例えば、1ドル100円の時に10万円で1,000ドル分の外貨を購入できたとします。
しかし、円安が進行し1ドル150円になった場合、同じ10万円では約667ドルしか購入できなくなります。この状況では、海外での宿泊費、食費、交通費、お土産代などに使える外貨が減ってしまうため、旅行全体の費用が高くなってしまいます。
特に、長期滞在や高級ホテルの利用を予定している場合、円安の影響はより大きくなります。海外旅行を計画する際は、為替レートの変動を考慮し、予算を適切に管理することが重要です。
輸入品の価格が上がり、生活必需品の値上げにつながるリスクがある
円安になると、輸入品の価格が上昇します。
日本は食料や原材料、エネルギー資源の多くを輸入に頼っているため、円安はこれらの価格を押し上げる要因となります。
輸入企業はコスト増を吸収しきれず、最終的に商品やサービスの値上げに踏み切らざるを得なくなるでしょう。生活必需品の価格が上昇することで、家計の負担が増加します。
特に、輸入原材料の価格高騰が著しい場合、企業は十分に価格転嫁できないこともあり、収益が圧迫されるリスクがあります。円安が長期化・深刻化すれば、物価上昇と実質賃金の低下を招き、消費の冷え込みにつながりかねません。
賃金が変わらないのに出費が増える
円安になると、輸入品の価格が上昇するため、私たちの生活に必要な食料品や日用品、ガソリンなどの値段が高くなります。
一方で、多くの企業は急な円安に対して賃金をすぐに上げることはありません。その結果、収入は変わらないのに支出ばかりが増えてしまうのです。
特に問題なのは、電気料金や都市ガス料金の上昇です。これらは円安により輸入価格が上昇した燃料費の影響を大きく受けます。光熱費の値上がりは家計に直撃します。
さらに、賃金の伸び率を物価上昇率が上回ると、実質賃金がマイナスになります。足元の物価高と円安により、実質賃金は2022年3月まで24ヶ月連続のマイナスが続いています。円安が実質賃金の回復の足かせとなっているのです。
円高のメリット
- 輸入企業は仕入れコストが下がり、商品価格を安くできる
- 海外旅行や輸入品の価格が下がり、消費者は安く購入できる
輸入企業は仕入れコストが下がり、商品価格を安くできる
円高になると、外国通貨に対して円の価値が上がるため、輸入企業は同じ金額の円でより多くの外国通貨を購入できるようになります。つまり、海外から仕入れる原材料や商品のコストが下がるのです。
仕入れコストが下がれば、商品の価格を引き下げることが可能になり、消費者にとってもメリットとなります。
特に、食料品や日用品など、輸入に頼る割合が高い商品では、円高の恩恵を受けやすくなるでしょう。
海外旅行や輸入品の価格が下がり、消費者は安く購入できる
円高になると、日本円の価値が上昇し、外貨と交換する際に有利になります。つまり、同じ金額の日本円でより多くの外貨を手に入れることができるのです。
これは、海外旅行をする際に大きなメリットとなります。現地での食事代やホテル代、お土産代などが割安になるため、旅行者は予算を抑えつつ、より充実した時間を過ごすことができます。
また、円高は輸入品の価格にも影響を与えます。海外から輸入される食品、衣類、電化製品などの価格が下落するため、消費者は安く購入できるようになります。
これにより、生活必需品や嗜好品などの購買意欲が刺激され、国内の消費が活性化する可能性があります。ただし、過度な円高は日本の輸出企業の競争力を低下させ、業績悪化につながるリスクがあることにも注意が必要です。
円高のデメリット
- 輸出企業の業績が悪化し、売上が減少する可能性がある
- 海外資産に投資している場合、円高で資産価値が減少する
- 日本の輸出製品の価格が上昇し、海外で売れにくくなる
- 安価な海外製品が幅を利かせ、国内企業の業績悪化や景気悪化につながる恐れがある
輸出企業の業績が悪化し、売上が減少する可能性がある
円高になると、日本の輸出企業にとっては大きな打撃となります。
円高により、海外で売る商品の現地通貨建ての価格が割高になるため、現地の消費者にとって日本製品の魅力が低下します。その結果、輸出数量の減少や値下げ圧力により、売上高が減少する可能性があります。
さらに、円高により海外子会社からの受取りも目減りするため、企業の最終利益も圧迫されます。特に自動車や電機など輸出比率の高い企業ほど、円高による業績悪化のリスクが高くなります。
企業は生産拠点の海外移転などで対応を進めていますが、急激な円高には対応が難しいのが実情です。
海外資産に投資している場合、円高で資産価値が減少する
円高になると、外貨建ての海外資産の円換算価値が目減りしてしまいます。例えば、1ドル100円の時に10万ドルの米国株を保有していたとすると、円換算で1,000万円の資産価値がありました。
しかし、円高が進行して1ドル80円になると、同じ10万ドルの米国株でも円換算価値は800万円に減少します。
つまり、円高により、外貨建て資産の円ベースの評価額が目減りするリスクがあるのです。
特に、退職後の資金を外貨建て保険で運用している場合など、円高は資産価値を大きく毀損する可能性があるため注意が必要です。
日本の輸出製品の価格が上昇し、海外で売れにくくなる
円高になると、日本の輸出製品の価格が外国通貨建てで高くなります。例えば、1ドル100円の時に1万円の商品は100ドルですが、1ドル80円になると125ドルに値上がりします。
これにより、日本製品の国際競争力が低下し、海外での売上が減少する可能性があります。
特に、自動車産業など輸出に依存する企業は、円高の影響を大きく受けます。
さらに、売上減少により国内の雇用や賃金にも悪影響を及ぼし、景気後退につながるリスクがあります。
安価な海外製品が幅を利かせ、国内企業の業績悪化や景気悪化につながる恐れがある
円高が進むと、海外から安価な製品が大量に流入してきます。
国内企業は、品質面での優位性はあるものの、コスト面で太刀打ちできず、市場シェアを奪われてしまう可能性があります。
特に、中小企業は体力的に厳しい状況に追い込まれるでしょう。国内企業の業績が悪化すれば、賃金の伸び悩みや雇用不安から個人消費が冷え込み、景気全体にマイナスの影響を及ぼしかねません。
さらに、国内生産の空洞化が進めば、日本経済の競争力が低下し、長期的な景気悪化を招く恐れもあります。
円高・円安のわかりやすい覚え方
円高と円安を簡単に覚えるコツは、「高い」と「安い」に注目することです。円高は、外国の通貨と比べて日本円の価値が高くなる状態を指します。
例えば、1ドル=100円から1ドル=90円になると、より少ない円でドルを買えるようになるため、円の価値が高くなったと言えます。つまり、「円高=円の価値が高い」と覚えましょう。
一方、円安は円の価値が外国の通貨と比べて安くなる状態です。1ドル=100円から1ドル=110円になると、同じ1ドル買うのにより多くの円が必要になります。これは円の価値が下がったことを意味するので、「円安=円の価値が安い」と覚えるとわかりやすいですね。
円高と円安は、日本の経済や私たちの生活に大きな影響を与えます。それぞれのメリットとデメリットを理解して、賢く対応していくことが大切です。
まとめ
円安とは、外国通貨に対して円の価値が下がり、1単位の外貨を買うのにより多くの円が必要になる状態のことです。
一方、円高とは円の価値が上がり、同じ金額の円でより多くの外貨を買えるようになる状態を指します。
円安になると、輸出企業は有利になりますが、輸入品の価格が上昇し、海外旅行も割高になるなどのデメリットがあります。
円高の場合はその逆で、輸入品が安くなり、海外旅行も割安になりますが、輸出企業は不利になります。
円安・円高には明確な基準はなく、為替レートの変動によって判断されます。個人や企業はそれぞれの立場でメリット・デメリットを理解し、リスクヘッジや対策を行うことが重要です。