期待値(EV)は、同じ条件の取引を何度も繰り返したときに、1回あたり平均していくら増減するかを表す数字です。計算式は「勝率 × 平均利益 − 負ける確率 × 平均損失」で、ここからスプレッドを差し引いたものが、実際の1回あたりの平均損益になります。この記事では、期待値の計算と、国内各社の公表スプレッドを入れたときの変化、そして記録した回数が少ないと期待値の推定がどれだけぶれるかを、数字で示します。
期待値の計算式
期待値 = 勝率 × 平均利益 −(1 − 勝率)× 平均損失
平均利益と平均損失は、pips でも円でも同じ単位で揃えれば計算できます。以下では USD/JPY を1万通貨で取引したとして、1pips(0.01円)=100円で換算します。
| 例 | 勝率 | 平均利益 | 平均損失 | 期待値(1回あたり) |
|---|---|---|---|---|
| A | 60% | 30pips | 50pips | 0.6×30 − 0.4×50 = −2pips(−200円) |
| B | 40% | 60pips | 30pips | 0.4×60 − 0.6×30 = +6pips(+600円) |
| C | 80% | 10pips | 50pips | 0.8×10 − 0.2×50 = −2pips(−200円) |
勝率が高い A や C でも、負けたときの損失が大きければ期待値はマイナスになります。逆に B は勝つ確率%でも期待値はプラスです。勝率だけ、平均利益だけでは、繰り返したときの結果は分かりません。
期待値が0になる勝率
平均利益と平均損失の比(リスクリワード比)が決まれば、期待値がちょうど0になる勝率が計算できます。
損益分岐の勝率 = 平均損失 ÷(平均利益 + 平均損失)
| 平均利益:平均損失 | 損益分岐の勝率(スプレッドなし) |
|---|---|
| 1:2 | 66.7% |
| 1:1 | 50.0% |
| 2:1 | 33.3% |
| 3:1 | 25.0% |
リスクリワード比と勝率の関係はリスクリワードの記事でも扱っています。
スプレッドを入れると期待値はどう変わるか
スプレッドは勝っても負けても毎回かかるので、期待値からそのまま差し引きます。
コスト込みの期待値 = 期待値 − スプレッド
当サイトが2026年9月22日に取得した USD/JPY の掲載スプレッドは、国内8社が0.2銭(=0.2pips)、SBI FXトレードが0.18銭(月次実績の基準値)、OANDA証券が0.4銭でした。例 B に入れると次のとおりです。
| スプレッド | コスト込みの期待値 | 100回あたり(1万通貨) |
|---|---|---|
| 0.2pips | 6 − 0.2 = 5.8pips | +58,000円 |
| 0.4pips | 6 − 0.4 = 5.6pips | +56,000円 |
| 3.9pips(掲載値の適用時間外の例) | 6 − 3.9 = 2.1pips | +21,000円 |
平均利益が6pips程度の取引では、掲載値の適用時間帯の外で取引しただけで、期待値の大半が消えます。平均利益が小さいほど、スプレッドの影響は大きくなります。各社の適用時間帯はスキャルピングの取引コストの記事にまとめています。
なお、スリッページ(注文価格と約定価格の差)もコストです。スプレッドと同じように、記録できるなら期待値から差し引きます。
何回分の記録があれば期待値を信用できるか
過去の取引から期待値を出すとき、回数が少ないと偶然で大きくぶれます。目安として、平均損益の標準誤差は「1回ごとの損益の標準偏差 ÷ √回数」で計算できます。
例 B(勝つ確率%、+60pips/−30pips)の1回ごとの損益の標準偏差は約44pipsです。
| 記録した回数 | 標準誤差 | 平均(6pips)に対するぶれの目安(±2標準誤差) |
|---|---|---|
| 20回 | 約9.8pips | −13.6〜+25.6pips |
| 100回 | 約4.4pips | −2.8〜+14.8pips |
| 400回 | 約2.2pips | +1.6〜+10.4pips |
20回の記録では、本当の期待値がマイナスでも、記録上はプラスに見えることが十分にあります。これは統計の一般的な性質で、個々のやり方の良し悪しを示すものではありません。また、相場の状況が変われば、過去の勝率や平均損益がそのまま続くとは限りません。
記録をつけるときの項目
- 勝ち・負け、利益・損失の pips と円
- 取引した時刻(スプレッドの適用時間帯の中か外か)
- 約定価格と注文価格の差(スリッページ)
- スワップ(日をまたいだ場合)
この4つがあれば、上の式でコスト込みの期待値と、そのぶれの大きさを自分で計算できます。
出典
- 各社の USD/JPY の掲載スプレッド:各社の公表ページ(当サイトが2026年9月22日に取得。データに取得元と原文のハッシュを記載)
- 期待値・標準誤差の式:確率・統計の一般的な定義